半跏趺坐 -hankafuza-

ソウルジェムの濁りきったアラサー第二童貞がココロの平穏を目指す話

ファウスト

[グレートヒェンの部屋]

 

 

胸はこがれ

思いはつのる。

あのやすらぎは もう

けっして もどってこない。

 


そのひとの見えぬところは

すべて墓。

世はおしなべて

にがく くるしい。

 


うつろな

こころ、

つきぬ

あこがれ。

 


胸はこがれ

思いはつのる。

あのやすらぎは もう

けっして もどってこない。

 


あのかただけを追うて

窓から見る、

あのかただけをもとめて

そとに立つ。

 


あのかたのけだかい歩み、

秀でた姿、

口もとの笑み、

雄々しいまなざし。

 


そして かぐわしい

ことばの流れ、

力をこめるみ手、

そして ああ そのくちづけ。

 


胸はこがれ

思いはつのる。

あのやすらぎは もう

けっして もどってこない。

 


あこがれはただ

そのひとを追う。

ああ この腕に

しかととらえて、

 


思いのままに

くちづけを。

たとえ そのひとのくちづけに

この身は消えて失せるとも。

 

 


ファウスト 悲劇第一部 (手塚富雄訳)より